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最新刊中心の書評。昔の掘り出し物もたまに書きます。その他雑感も。

『黄金のアウトプット術』に学ぶ5つのヒント

  書評ブログを初めて1週間。なかなかPVが伸びず苦しんでいたところで、前回の投稿

honzyme.hatenablog.com

が幸いなことに著者ご本人に読んでいただけて、その結果として多くの方々に読んでいただくことができました。とはいえまだまだ文章の質にも、今後のブログ運営にも自身がない。藁にもすがるように手に取った本が思いがけずこれからの指針を与えてくれたので、せっかくなので共有します。ちなみんにこの本は体系的に書かれた、というよりはアイディアのカタログ的な本です。ですから僕にとって特に参考になったところ5つの引用とその感想、と言う形で進めていきます。

 

 

 

アウトプットは文章だけではない

文章でのアウトプットの才能があるとすでに自覚している人がいるなら、別のアウトプットの才能も見つけておくことをおすすめする。なぜなら今は誰もがSNSで文章を書く時代だからだ。

 本書ではトーク、写真、動画、絵画、音楽、ダンス、スポーツ、ゲームなどさまざまなアウトプットが提案されています。僕自身は文章の才覚があるとは全く思いませんが、確かに文章一辺倒にこだわりすぎていたなあと少し反省しています。今は漫画や映画含め、人の心を動かすのはストーリーだという時代になってきているように感じます。これらの中で僕が挑戦したいことはいくつかあるのですが、それについてはまた別の記事で書こうと思います。

都々逸超にリズムを整える

読んだ時に心地よくなるように、つい「よっ」とか「はっ」とか「それからどうした」と合いの手を入れたくなるくらいまでリズムを整える

 本文では五七五を推奨していたり、メイクアメリカグレイトアゲインを例に取ったりして、いかに心に残るかを解説されています。文章を書くときに、内容や言葉選びを頑張るのは当然かもしれませんが、リズムに気を配る人はそれほど多くないのではないでしょうか(少なくとも僕はそうです)。しかし、特にブログの文章のように途中で離脱する人が多い場合、流れるように読めるようにリズムを調整するのは極めて大事だと思います。これから心がけたいところです。

 

プレゼンには小ネタを

プレゼンの目的は、何かを伝えることだろう。しかし、最も伝えたいことが伝わるとは限らない。だから、そこを目標とはせず、何か一つでも伝えることを狙って、いくつものネタを散りばめなければならない。

本文中では、ジャパネットたかたの高田社長のエピソードが書かれています。例えばボイスレコーダーのCMで、「ボイスレコーダーがあれば、病院で医者に難しいことを言われても、それを録音できるので、あとで何度でも聞き直せる」とプレゼンしたそうです。この方法は、話すことに限らないと思います。書くこと(例えばブログ)でも、重要なことが必ずしも伝わらないこともあるでしょう。そのときにエピソードを色々挟んでおくのです。僕の今までの記事は、抽象的にまとめたものが多かったので、この記事からエピソード(や例)を意識的に増やしています。

 

メイキング動画で学ぼう 

技法のないままいい成果物をインプットしても、プロの鑑賞家にはなれるかもしれないが、アウトプットする側にはなれない。スポーツも同じで、いいプレーを見続ければ評論家のようなことは言えるようになっても、自分のプレーは到底、そこには及ばない、だからこそメイキングが役に立つのだ。

 本文では、例えば絵画を学ぶには『永山流 水彩画法』というDVD、また料理動画や映画のDVD付属のメイキング動画などがあげられています。確かに文章などとは違い、技法が特に複雑なものは、映像の方がわかりやすいですよね。ただもっというと、そういう名人に直接会って習うとより良いですよね。色々な講座など調べて、受けて見たいと思います。後日情報共有いたします。

 

英語より落語

話術で最も学ぶべきは、言葉遣いや滑舌ではなく、まず、リズム感だ。

ではそのリズムをどこで学ぶのかというと、日本ではやはり落語ということになるだろう。 

 真っ先に聞くべきは2001年に亡くなった古今亭志ん朝の落語で、存命の方の中では柳家小三治の落語だそうです。僕は落語には疎いのであまりわかりませんが、文章やプレゼンにリズム感をつけたい、と思ったので、落語を聞きに行ってみます!それも感想は後日で。笑

 

さて、5ポイント紹介致しました。あくまで僕にとってとくに参考になったのがこの5ポイントと言うだけで、この本には他にもたくさんの秘訣が詰まっています。またこの本では、アウトプットの重要性が再三繰り返されており、本当に身にしみます。ぜひ読んで皆さん一人一人の自己表現に役立てていただければ幸いです。上から目線な言い方になりましたが、僕も精進します!そして、後日の記事の宣言をたくさんしてしまったので、そちらも頑張りたいと思います!笑

 

 

天才の頭の中を完コピ!書評『破壊 新旧激突時代を生き抜く生存戦略』

 本書は、葉村真樹さんという知の巨人の頭の中が全てつまびらかになった衝撃の一冊です。その点で、タイトルは単なる自己啓発書に見えている時点で少し損しているように感じます。しかし、プロローグを読み進めていくとそんな誤解は一瞬にして吹っ飛びます。この本の最大の特徴は、大量にストックされた事例がわずか3つのフレームで捉え直せてしまうということで、プロローグでいきなり明かされています。さらに本書は具体例の宝庫で、かつ一つ一つのエピソードがかなり詳細で、知的好奇心もくすぐられるというダブルでお得な本です。

 

 

破壊――新旧激突時代を生き抜く生存戦略

破壊――新旧激突時代を生き抜く生存戦略

 

 

3つの技術進化

 プロローグで早速指摘されているのですが、人類の進化の歴史は、①インフォメーション②モビリティ③エネルギーという3つの技術革新によって起こったものだと言うのです。ここでいうモビリティとは、人間や人間が移動させたいものを物理的に移動させる能力を指すようです。これらの3つの技術進化こそが、破壊的イノベーション(ディストラプション)を引き起こしているのです。

 

 第1章では、テクノロジーは人間の感覚と機能の拡張だ、と喝破して次のような極めてわかりやすい図で解説しています。

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 これがテクノロジーの本質である、という前提から本書は出発します。ここで最も重要なのは、彼がエネルギーがこの3つの中で最も根本にある、と指摘したことです。エネルギーがなければインフォメーションの技術も発達しないし、モビリティも発達しないとですからね。ここから葉山さんはカンブリア大爆発や聖書からテレビまで、あらゆる例をこの3つのカテゴリーで見事に説明していきます。

カンブリア大爆発の話は特に面白いので紹介しておきましょう。

このカンブリア大爆発が起こった要因については諸説あるが、近年有力な説となっているのがオーストラリアの生物学者アンドリュー・パーカーが2003年、その著書『眼の誕生』で提唱した「光スイッチ説」である。パーカーはその著書のタイトルのとおり、「眼の誕生」がカンブリア大爆発を引き起こしたと主張している。その主張を簡単に説明すると、次のようなものだ。38億年前の地球上で生命体が誕生した後、カンブリア大爆発以前から存在していた生物の中から、突如眼を持つものが現れる。眼を獲得した生物は、獲物を効率よく探すことが可能となる。一方で被食者は、硬い殻やトゲを持ったり、海底の堆積物中に潜るなど、形態を多様化させることによって捕食から逃れようとする。あるいは、さらに精度の高い眼を獲得することで、捕食者から逃れる。もしくは捕食するために素早く動けるヒレを持つものが現れるなど、外部形態を多様化するようになる。このような「食うか、食われるか」が加速する食物連鎖の淘汰圧の中における生存戦略として、生物は形態を多様化、進化させるようになった。

 それらの例を踏まえて、①ディスラプションは人間の本能である機能と感覚の拡張なので抵抗すべきではなく、②ディストラプションを主導するか流れに乗らなければ生き残れない、という教訓を得ます。そして、現在進行形のディストラプションも確実に起こっていると指摘します。先の例との関連で言うと、自動運転車に使われる画像認識技術がまさにそうで、「眼」という圧倒的に高性能な受容体を拡張することでディストラプションが起こる、という例が示されています。

 また、最近のスマートスピーカーの激しい競争も、人間の機能拡張で説明します。ちなみに、スマホもよく考えてみるとかなり不便で(小さくて見づらいし、取り出すのもめんどくさいし)、仮想世界と現実世界が融合したMR(複合現実)に転換する可能性が見込まれるそうです。

1つの原則

 上で3つの技術革新がディストラプションを産む、と書かれていましたが、実際にはそれだけでは不十分です。技術革新は、単に人間の機能や感覚を拡張するだけなので、全く異なります。ですから、なぜ、どのような課題を解決するのか、が先に来なければならない、これが第2章以降で伝えている唯一のメッセージと言ってもいいでしょう。しかしそれは、だから読まなくていいと言う意味ではありません。筆者がエピローグで述べているように、結論ではなくどのようにその結論に至ったかが極めて重要だからです。そして繰り返しになりますが、本書は膨大な例がすべてこのフレームに当てはまることを、極めて明瞭に示しています。

 

  筆者は、この3つの原則を①人間中心に考える②存在価値を見極める③時空を制するという3つの原則にまとめています。②は消費者が求めるものと自分の強みの交わるところで勝負すること、③はこれからAIに労働が代替されて暇な時間がたくさんでき、余暇の時間をどうやって消費させるか(それが消費者にとっても幸せであるから)ということです。ここでよく考えてみると、②は①を意識していたら自然と取るアプローチですし、③は②を実現するためのヒントと捉えることもできます。

 

 ですから結論として、人間の不満や不便を解決するために①インフォメーション②モビリティ③エネルギーの3つのテクノロジーをどういかすかという生き方が基本的なスタンスです。例えばこれからは、AIに仕事が代替されて大量に余った余暇の時間を、最大限生かすべきだということです。間違っても手持ちの資産や能力が先に来ることはなく、人間のこういう悩みを解決したい!という問題意識が先に来るべきなのです。

 

 話がだいぶ抽象的になってしまいました。しかし何度も言うように、本書で最も面白いのは、具体例です。その面白さをお伝えするために、twitterの創業者、ジャックドーシーの創業時のエピソードを1つ紹介して、感想を終えます。

 

今でもツイッターのツイートを書き込む欄に「今どうしている(What’shappening?)」と書かれているのは、現在の状況をシェアするツールというジャック・ドーシーの構想の名残りである。そして、ジャック・ドーシーはいろいろな使われ方を想像したという。例えば、患者を収容した救急車の救急隊員が手にしたモバイル端末からツイッターで患者の容態と症状に加えて受け入れ可能な病院を求めると、その救急車のアカウントをフォローしている病院の一つが受け入れ可能と返す。あるいはフォローしている病院で受け入れ可能な病院がない場合は、フォロー外の病院にも情報をシェアして(要は今で言うリツイートで拡散して)受け入れ可能な病院を尋ねるといったことも可能だと考えた。

 

 

 

破壊――新旧激突時代を生き抜く生存戦略

破壊――新旧激突時代を生き抜く生存戦略

 

  ちなみに本書の巻末を読むと大量の参考文献が載っています。『破壊 新旧激突時代を生き抜く生存戦略』の理解を深めるために、僕が読んだことがある中では、人類史に関しては

 

銃・病原菌・鉄 上巻

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「これからの生き方」は、

 

幸せとお金の経済学

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 が特にオススメです。

 

科学崇拝の終焉〜『闇に魅入られた科学者たち』書評〜

  純粋な学問の探究心が、特定のイデオロギーと結びついた時に起こる化学反応は、時に破滅的な被害をもたらす—本書はその残酷な事実を、豊富な例を通して我々に突きつける。胃液を口に含んだ外科医ジョン・ハンター、ナチスの大量虐殺の推進者オトマール・フォン・フェアシュアー・精神疾患患者の脳を切り刻んだウォルター・フリーマン、東ドイツで組織的ドーピングを牽引したマンフレッド・ヒョップナー、"史上最悪の人体実験"を行ったフィリップ・ジンバルドーの5人だ。ここでは、今問題になりつつある優生学を象徴する人物である、 オトマール・フォン・フェアシュアーを紹介しよう。

闇に魅入られた科学者たち―人体実験は何を生んだのか

闇に魅入られた科学者たち―人体実験は何を生んだのか

 

 最近優生学の再来として、光と闇の両面を持つゲノム編集については、こちらの記事をご覧いただきたい。

 

honzyme.hatenablog.com

 

ナチスが大量虐殺で悪名高いのは言を俟たない。600万人のユダヤ人と20万人の障害者が犠牲になった痛ましい史実だ。そしてこの殺戮は、ユダヤ人と障害者に対する差別から起こったものだ。ただここで衝撃の事実がある。この殺戮が当時著名な科学者に裏付けられた優生学によるものであったこと、そしてその科学者も、おそらく善意で行っていたことだ。さらに、この差別的な思想がドイツ特有ではなく、アメリカやヨーロッパで先に起こっていたことをご存知だろうか。

 

 

ここでご紹介するフェアシュアーは戦後、断罪されずに教授を続けることになるのだが、多くの学生や研究者から穏やかな人柄の教授だと評価を受けている。実際もともと過激だったというより、ナチスと結びついてどんどんエスカレートしていくのだ。 

 

そもそも優生学とは、人間は自然の中で適応したものが生き残っていくことで進化を遂げていくという遺伝学を社会に適用したものだ。優生学では、ヒトにおいても遺伝的に望ましいものは残して、望ましくないものは除くことで、自然淘汰をヒトの手で起こし、よりよい民族や人類にしていこうという思想だ。

 

この思想を利用して、障害者に不妊手術をするという「断種」手術が行われた。アメリカのインディアナ州で最初に合法化され、他の州やヨーロッパ各国もそれに続いた。彼自身はこのとき、病気や障害を持った子が生まれて来る方が、つまり断種をしない方が残酷なことだと考えていたようだ。最初は抵抗にあったものの、当時のドイツの財政危機が彼を味方した。歳出削減が叫ばれるなか、限られた財源を、障害のある人よりも健康な人に割くべきだ、という恐ろしい風潮が彼を後押ししたのだ。

 

さらに彼を後押ししたのが、アドルフ・ヒトラーだ。それまではかろうじて、断種には当人の同意が必要とされていたが、ヒトラーが就任すると、国が断種手術を強制できるようになる。こうしてヒトラーとフェアシュアーが持ちつ持たれつの関係になってから、暴走はさらにエスカレートする。その後は、障害者との婚姻を禁ずる「婚姻健康法」が成立、ついには差別の対象はユダヤ人にも及んでいくのだ。

 

当時跋扈していた反ユダヤ主義を、彼はこう助長するのだ。科学的裏付けをしたと言ってもいい。

異人種が移住して来ると遺伝的に異質な形質が持ち込まれ、ドイツ民族が変えられてしまう。ユダヤ人が増加し、影響が大きくなることを阻止しなくてはならない。    『遺伝病理学』フェアシュアー・1937年

 ユダヤ人というのは、生物学的な人種ではなく、歴史的に、社会的にカテゴリーに入れられたものだから、そんなことが起こるはずはない。しかしヒトラーとフェアシュアーは一度信じると疑うことなく突き進んでいく。しまいには、実験の資料として使うため、収容所のユダヤ人を倒れるまで採血し続けたり、殺して眼球や内臓、骨格などをとるなど、狂気の沙汰としか思えないことを部下にさせるようになってしまう。

 

さて、時代は21世紀も四半期に迫ろうとしている。人間のDNAが1日で解析できるようになった現在、ダウン症などの異常を起こす可能性が高いと判断された夫婦の9割以上が中絶しているという現状がある。さらに、優生学的な処置が横行しそうな兆候もある。

 

例えばアメリカのカリフォルニア州では、現在、医師が妊婦さんに出生前診断を勧めなければなりません。診療の費用は全部、州が出すことになっています。背景にあるのは、ダウン症のお子さんの出生が少なくなると医療費が節約できるという経済の論理です。もちろん、制度上は検査を受けるか受けないかは、あくまで本人の自由意志です。しかし、検査を受けないこと自体が周りから "無責任だ"と非難されるような時代にならないとも限りません。そういう病気の方への差別意識を醸成しかねない危険性を秘めていると思います。 

 実は日本でも1996年まで、優生保護法に基づいて断種手術が行われており、残念なことに、受け入れる土壌が全くないわけではないのだ。さらに現在、自国ファースト主義がはびこり、経済的に将来への不安を抱える人も多い。また、テレビやネット上で異常なまでのバッシングが蔓延し、「自分がよければいい」といった類の自己啓発書が書店に並ぶ。日本も優生学再来の危険性を十分抱えているのだ。ドイツの失敗に学び、特定の遺伝的形質を「優れている」とか「劣っている」とか決めつけることなく、多様性を認め合うことが、今あらためて求められているのだ。

 

闇に魅入られた科学者たち―人体実験は何を生んだのか

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