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最新刊中心の書評。昔の掘り出し物もたまに書きます。その他雑感も。

稀代のストーリーテラーによる『24歳の僕が、オバマ大統領のスピーチラーターに?!』書評

 『24歳の僕が、オバマ大統領のスピーチラーターに?!』−このタイトルに惹かれてついついこの本を手にしまう。翻訳された山田美明さんがタイトルをつけたのかはわからないが、絶妙なタイトルだ。だって、原著の署名は『Thanks,Obama』だから。全然違うじゃないか。だいたい大統領のスピーチを書いている人が20代前半なんて信じられるだろうか。しかし本書を読み進めていくとそれが案外普通であることがわかる。あくまで1000年に一度の人物なのではなく、普通の人間として等身大の自分を書き連ねている。

 

24歳の僕が、オバマ大統領のスピーチライターに?!

24歳の僕が、オバマ大統領のスピーチライターに?!

 

 

 

 しかし、こと言葉選びに関しては天才的だ。著者のデビット・リットは、オバマ大統領のジョーク担当スピーチライター。彼はあふれ出すジョークで僕たちが本を読むことを不可能にする。電車の中はもちろん、カフェでも、教室でもだ。こんな書き方をされて笑わずにいられるだろうか。

それでもまだ、あきらめてはいなかった。まだ最後の部分の部分の撮影がある。あのイヤホンを使ったジョークだ。これは絶対に成功させよう。ホープが先ほどの撮影を終えると、僕はまたしても大統領のデスクに歩み寄った。そしてズボンのポケットに手を突っ込み、コードの毛玉のようなものを引っ張り出した。

なぜイヤホンがそんな風になってしまったのか、いまだにわからない。たぶん、あの待合室で不安に任せて手でいじくっているうちに、どうしようもないほどこんがらがってしまったのだろう。僕はどうしていいかわからず、ただ一つ思いついたことをした。そのコードの塊をそのまま大統領に渡したのだ。

ホワイトハウスで働いていれば、よくこんな言葉を耳にする。「この世で大統領の時間ほど貴重なものはない」。僕はいつもそれを、ありふれた決まり文句だとしか思っていなかった。大統領は30秒ほど、僕をじっと見つめながら、もつれたコードをほどいた。さらにほどいた。まだまだほどいた。そしてとうとうホープの方を見て、ため息をついた。

「事前の準備がなってないな」

お分りいただけだろうか。もしおわかりいただけなかったら完全に僕のチョイスミスだ。しかし、ここだけからも、彼の状況描写力、心の動きのありありとわかる表現力、そして笑いのセンスがにじみ出ていると思う。 オバマの顔がシュールなほどに目に浮かび、つい笑ってしまうではないか。しかもこれで日記をつけていなかったというのだから驚きだ。こんな感じで流れるような文章に乗ってしまい、500ページ近い本書もつい一気に読んでしまうだから、文章力をつけたい人は、100冊の実用書を読むよりこの本を読む方がいいのではないかと思う。現に僕の文章力はこの本を読んで劇的に進化した(と思っている)。試しにどのぐらい変わったかを知るために、2日前に書いた記事をぜひ読んでほしい。

honzyme.hatenablog.com

自分でも思う。あまりにもお粗末だ。ビフォアフターどころの騒ぎではない。笑

皆さんも思い立ったらすぐに本書を読んで劇的に文章力を進化させてほしい

 

24歳の僕が、オバマ大統領のスピーチライターに?!

24歳の僕が、オバマ大統領のスピーチライターに?!

 

  本書を読むべき理由は他にもある。その中でも大きいのはアメリカ政治がすんなり頭に入ってくることだ。先ほどの引用でなんとなく感じ取ってもらえたと思うが、本書は頭にスイスイ入ってくる絶妙な書き方で進んでいく。皆さんも経験があるだろう。歴史の教科書を読むよりも大河ドラマを見た方がはるかに歴史が頭に入ったはずだ。本書も、覚えようとしなくても、民主党共和党の泥沼の戦いからオバマケアの話、そしてスピーチ作成の舞台裏までスイスイ頭に入ってしまうのだ。ぼくは恥ずかしながらオバマケアが潰されそうになった時の共和党のやり方や、債務不履行危機についてあまり知らなかった。こういうテーマを手軽に学べて、本当にラッキーだった。

 

 最後にお伝えするのは、ジョークの大切さだ。この本では、オバマが再戦できるか危ないとき、スタッフがスピーチのスライドを用意せずスピーチが滞ったとき、オバマケアのサイトがアクセス不能になったとき、全てジョークで乗り切っていく。実はオバマはブラックジョークで有名なのだ。僕たちは大統領になるわけではない。人前で話す機会もそれほど多くないかもしれない。しかし、何かに失敗した時にそれを笑いに変える力、言ってみれば「良い自虐」で乗り越える、というのも一つの選択肢として重要なのではなかろうか。そして、その力は、今日読めば明日から使えるのだ。皆さんも、僕が経験した感動と興奮をぜひ味わってほしい。

 

 

24歳の僕が、オバマ大統領のスピーチライターに?!

24歳の僕が、オバマ大統領のスピーチライターに?!