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最新刊中心の書評。昔の掘り出し物もたまに書きます。その他雑感も。

世界史入門決定版!『30の「王」からよむ世界史』書評

本書は、名君とされる30人の君主を通して、世界史を一気に辿る本だ。タイトルから言って、名君には時代や場所を超えた共通性があるのかと思いきや、読み進めていくとその期待が見事に裏切られていくのが本書の面白いところだ。君主が30人いれば、30人の生き方がある。とはいえ、もちろん同じ時代や同じ場所での君主はそれぞれ似たようなことをやっていることも同時にわかる。また統治するのが帝国だった場合、各民族の伝統を尊重することで統治に成功するのも共通だ。アケメネス朝ペルシアのダレイオス1世然り、マケドニアアレクサンドロス大王然り、ローマ帝国トラヤヌス帝然りである。

 

 

 

 

本書はあくまで世界史入門者向けの本だ。すでに詳しい人には、教科書にある記述も多いので少し物足りないかもしれない。しかし、国王の伝記として、教訓がたくさん得られると同時に、「この王についてもっと知りたい」というきっかけ作りとなる、と言う点で非常に良い本だ。そして著者が言う通り、この本をきっかけとして、興味を持った国王の伝記へとシフトしていこう。

 

著者の本村さんは序章で、歴史におけるタブーである「もし」について積極的に問うている。以下の4つの問いに答えられるだろうか。

もしアレクサンドロス大王がいなかったならば、ヘレニズム世界は成立していただろうか?

もし康熙帝がいなかったならば、満州族漢民族を融合する文化的土壌は築かれただろうか?

もしヴィクトリア女王がいなかったら、イギリスは大英帝国と呼ばれるほどの大国になっていただろうか?

もし善良なニコライ2世がいなかったら、民衆を巻き込むほどのロシア革命は起こっていただろうか。

結論から言うと、最初の2つはおそらくYes、後の二つはおそらくNOだ。前者は専制君主(権力を自由に行使できる君主)で、後者は立憲君主(法に拘束された権限のみをもつ君主)だという違いもある。ただし専制君主だからといって敵がいないわけではないし、立憲君主だからと言って力がないわけでもない。アレクサンドロスニコライ2世について、答えを探っていこう。残りの二つはぜひ本書を読んで確認していただきたい。

 

マケドニア王のアレクサンドロスは、父のフィリッポス2世が招いた家庭教師アリストテレスに、13~16歳の間学んだ。アリストテレスギリシアの哲学者で、アレクサンドロスに与えた影響は大きく、アレクサンドロスは文化や自然科学への関心を深めることになった。またギリシャ文学にも関心を持ち、叙情詩に登場してたくさんの敵を打ち破る英雄アキレウスに憧れていたと言われている。その影響もあってか、果敢な戦法で多くの敵を破ったアレクサンドロスは、アケメネス朝ペルシア(アジアの一部)を占領する。彼はペルシアやエジプト、小アジアの文化を尊重して、特にペルシアの宮廷儀礼や衣装は積極的に取り入れた。そして占領したアジア各地にアレクサンドリアと言う都市を建て、ムセイオンという研究施設や図書館などを通してギリシア文化を各地に広めた。彼のギリシア文化への深い造詣と、たぐい稀なる軍事指揮官としての才能を考えると、彼がいなければヘレニズム世界は成立しなかったと言っていいだろう。

 

ニコライ2世が生まれたのは、ロシアが近代化に取り残され、英仏に戦争で敗れた時代。近代化に乗り出したものの暗殺されたアレクサンドル2世、反動で反政府勢力を徹底的に弾圧したアレクサンドル3世の後を継いだ。ニコライ2世が即位してから、日本がロシアに宣戦布告し、日露戦争に発展。戦争の長期化で国民生活が逼迫した上に、事実上日本に敗北した。そして、近代化を進めるウィッテを首相に起用して近代化を推進したかと思えば今度はストルイピンを起用し徹底的に反政府勢力を弾圧した。さらに、息子の血友病を直してくれたラスプーチンを過度に重用して政治の混乱を招き、国民からの信頼は地に落ちた。この中で二月革命十月革命という二度の革命で囚われ、処刑されることになる。こう考えると、確かに二転三転する政策や、時代を見通す洞察力の低低さが原因だと思うかもしれない。しかしこの時期には、同時にドイツ、オーストリアオスマン帝国の三国でも同様に君主制が瓦解している。君主制という仕組み自体が限界を迎えていたため、ニコライ2世でなかったとしても崩壊していた可能性は高い。そのため、近年は悲運の犠牲者として、現在は見直されている。

 

本書は、30人のそれぞれに、このように問いを立て、それぞれについて説明する、という形を取っている。問いを常に意識しながら読むと、このように頭の中が整理され、世界史への理解が深まる。そしてこの本の中で特に興味を持った王の伝記をぜひ手に取ってみよう。

 

 

 

 

 

 

 

ギリシア人の物語III 新しき力

ギリシア人の物語III 新しき力

 

 

 

最後のロシア皇帝 (ちくま新書)

最後のロシア皇帝 (ちくま新書)

 

 

【読書ノート】『スマホが神になる 宗教を圧倒する「情報革命」の力 (角川新書)』

スマホ—今やこれなしでは1日たりとも、いや、1時間も過ごせないだろう。これほど日々の生活に根付いた存在を宗教と比較し、宗教に取って代わる理由を丁寧に考察したのが本書だ。

 

 第1章ではまず、スマホが我々に与える影響について考察している。まず一つは、携帯電話時代には有料が当たり前であった機能のほとんどが無料のアプリという形で配布されていることだ。私たちの金銭感覚を大きく変えたのは間違いないだろう。またポケモンGOというアプリは、今まで家に閉じこもっていた人を外に出したという点で、人を動かすことにも成功した。

 

では、スマホはなぜ宗教に取って代わるとまで言えるのだろうか。2つの点で宗教と比較できる。1点は救済だ。今まで宗教の役割であった救済が、実際にスマホによって(スマホを通して)行われたのだ。東日本大震災では、公民館に取り残された人々のうちの1人の女性の息子がイギリスから助けを求めるツイートをし、救助された。また登山の経路を家族に伝えることのできるアプリ「compass」などもある。また、ポケモンGOは、うつ病広場恐怖症の改善に役立っているという報告もあり、広い意味でに救済と言えるだろう。

 

2つめは、畏怖である。神は、自らに逆らうものを容赦無く罰してきた。だから人間は恐れを感じて、例えば日本人は毎日神に水と榊を捧げてきた。それと同じことがスマホでも実際に起こっている。常にバッテリーを気にしないと落ち着かない、無くしたらパニックになる、コンサートや講演中に鳴らしてしまったら真っ青になる、などまだまだある。

 

さらにスマホは情報を与え、わからないことに対して答えてくれるという意味では宗教に優っているかもしれない。

 

スマホと宗教を比較してきたが、満員電車で、食事中、トイレでスマホを使う私たちは、そんなことを考える機会もない。日々に向き合うために本書を読み込んで、私たちの生活を俯瞰した目線で捉え直していきたい。

 

 

稀代のストーリーテラーによる『24歳の僕が、オバマ大統領のスピーチラーターに?!』書評

 『24歳の僕が、オバマ大統領のスピーチラーターに?!』−このタイトルに惹かれてついついこの本を手にしまう。翻訳された山田美明さんがタイトルをつけたのかはわからないが、絶妙なタイトルだ。だって、原著の署名は『Thanks,Obama』だから。全然違うじゃないか。だいたい大統領のスピーチを書いている人が20代前半なんて信じられるだろうか。しかし本書を読み進めていくとそれが案外普通であることがわかる。あくまで1000年に一度の人物なのではなく、普通の人間として等身大の自分を書き連ねている。

 

24歳の僕が、オバマ大統領のスピーチライターに?!

24歳の僕が、オバマ大統領のスピーチライターに?!

 

 

 

 しかし、こと言葉選びに関しては天才的だ。著者のデビット・リットは、オバマ大統領のジョーク担当スピーチライター。彼はあふれ出すジョークで僕たちが本を読むことを不可能にする。電車の中はもちろん、カフェでも、教室でもだ。こんな書き方をされて笑わずにいられるだろうか。

それでもまだ、あきらめてはいなかった。まだ最後の部分の部分の撮影がある。あのイヤホンを使ったジョークだ。これは絶対に成功させよう。ホープが先ほどの撮影を終えると、僕はまたしても大統領のデスクに歩み寄った。そしてズボンのポケットに手を突っ込み、コードの毛玉のようなものを引っ張り出した。

なぜイヤホンがそんな風になってしまったのか、いまだにわからない。たぶん、あの待合室で不安に任せて手でいじくっているうちに、どうしようもないほどこんがらがってしまったのだろう。僕はどうしていいかわからず、ただ一つ思いついたことをした。そのコードの塊をそのまま大統領に渡したのだ。

ホワイトハウスで働いていれば、よくこんな言葉を耳にする。「この世で大統領の時間ほど貴重なものはない」。僕はいつもそれを、ありふれた決まり文句だとしか思っていなかった。大統領は30秒ほど、僕をじっと見つめながら、もつれたコードをほどいた。さらにほどいた。まだまだほどいた。そしてとうとうホープの方を見て、ため息をついた。

「事前の準備がなってないな」

お分りいただけだろうか。もしおわかりいただけなかったら完全に僕のチョイスミスだ。しかし、ここだけからも、彼の状況描写力、心の動きのありありとわかる表現力、そして笑いのセンスがにじみ出ていると思う。 オバマの顔がシュールなほどに目に浮かび、つい笑ってしまうではないか。しかもこれで日記をつけていなかったというのだから驚きだ。こんな感じで流れるような文章に乗ってしまい、500ページ近い本書もつい一気に読んでしまうだから、文章力をつけたい人は、100冊の実用書を読むよりこの本を読む方がいいのではないかと思う。現に僕の文章力はこの本を読んで劇的に進化した(と思っている)。試しにどのぐらい変わったかを知るために、2日前に書いた記事をぜひ読んでほしい。

honzyme.hatenablog.com

自分でも思う。あまりにもお粗末だ。ビフォアフターどころの騒ぎではない。笑

皆さんも思い立ったらすぐに本書を読んで劇的に文章力を進化させてほしい

 

24歳の僕が、オバマ大統領のスピーチライターに?!

24歳の僕が、オバマ大統領のスピーチライターに?!

 

  本書を読むべき理由は他にもある。その中でも大きいのはアメリカ政治がすんなり頭に入ってくることだ。先ほどの引用でなんとなく感じ取ってもらえたと思うが、本書は頭にスイスイ入ってくる絶妙な書き方で進んでいく。皆さんも経験があるだろう。歴史の教科書を読むよりも大河ドラマを見た方がはるかに歴史が頭に入ったはずだ。本書も、覚えようとしなくても、民主党共和党の泥沼の戦いからオバマケアの話、そしてスピーチ作成の舞台裏までスイスイ頭に入ってしまうのだ。ぼくは恥ずかしながらオバマケアが潰されそうになった時の共和党のやり方や、債務不履行危機についてあまり知らなかった。こういうテーマを手軽に学べて、本当にラッキーだった。

 

 最後にお伝えするのは、ジョークの大切さだ。この本では、オバマが再戦できるか危ないとき、スタッフがスピーチのスライドを用意せずスピーチが滞ったとき、オバマケアのサイトがアクセス不能になったとき、全てジョークで乗り切っていく。実はオバマはブラックジョークで有名なのだ。僕たちは大統領になるわけではない。人前で話す機会もそれほど多くないかもしれない。しかし、何かに失敗した時にそれを笑いに変える力、言ってみれば「良い自虐」で乗り越える、というのも一つの選択肢として重要なのではなかろうか。そして、その力は、今日読めば明日から使えるのだ。皆さんも、僕が経験した感動と興奮をぜひ味わってほしい。

 

 

24歳の僕が、オバマ大統領のスピーチライターに?!

24歳の僕が、オバマ大統領のスピーチライターに?!